手形が持ち込まれた時はまず何
井土君、手形が持ち込まれた時はまず何を見る? 「それは社長、やはり持ち込んできた企業の経営状況や、直接、持ち込んできた人間の様子や人となりを見るのじゃないですか」 「井土君、重要なことはそんなことじゃない。持ち込んできた方は手形を早く現金化したいだけな のだよ。手形にとって大切なことは表書きにある振出人、振出し企業をしっかりと確認して、そこの調査をすること。もちろん裏書人も同 様だ。そして2番目。これが意外に重要。手形と言うものは当然のことながら有価証券だ。だから手形にも『相』というものがある」 「『相』ですか? それは人相の『相』と同じようなものですか?」
「まさにそうだよ。銀行の届け出印の押印の仕方。綺麗な印もあれば、どこかが欠けている印もある。だが、欠けているからといって低 く見てはいけない。このような印鑑は古くから使われていて、長く使われてきたからそうなったと見ることができる。だとすれば、その企 業自体に歴史があることが類推できやしないか。歴史が長いということは、それだけ信用がある会社と見ることができるからな。また、チ ェックライターの数字の姿や打ち方、丁寧なものもあれば、乱雑なものもある。そして宛先が明確か、振出日がきちんと正確に書かれてい るか。これが手形を受け取ったとき、一番に見なければならない重要なことなのだ」
「そこに記載されている情報だけで見分ける、そして見抜く力が必要となるのですね」
「そうだ、井土君。そして手形を見ただけで、何の経済調査、情報調査、そして経営状況の調査をしないまま、この手形であれば割り引 くことができると判断できるようにならなければならない」
「大変なことですね」
「市中金融はそれだけのリスクを背負っている。単なる情報や調査だけで判断すると、間違った判断を下すことは少なくないぞ」
社長の厳しい教育のなか、日々、手形を穴が開くまで見つめ、ポイントをチェックし始めた井土は、時が経つうちに金融マンとしてのス キルと、プライドを少しずつ持ち始めていった。
しかしながら、銀行とは違う次元にある市中金融業。いくら井土にスキルとプライドが醸成され始めていても世間の目はそうは見てくれ ない。井土はある日、それを知ることになる。現金化
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